ベクトルグループ傘下のPR会社アンティルで、経営企画とAI/デジタル推進を担当している中野晋太郎です。
4月8日に、自社で企画から推進してきたAI PRツール PRai をリリースしたのですが、知り合いから「これ使えばPR会社はいらなくなるよね、、。なんで自分達の仕事を奪うサービスを作ったの?」と言う連絡を複数いただきました。
この記事では、アンティルが、何故PRaiというツールを作ったのか、その背景を綴りたいと思います。製品の紹介というより、開発ストーリーに近いです。
一向にデジタル化が進まないPRの現場
自分のキャリアはPR業界一筋ではなく、元々は製造業の情報システム部での業務でした。アンティルに入ってからは、PRのコンサルティングのみならず、HR・組織開発や経営企画を経て、今はAI事業の推進も担当しています。
PR業界では15年のキャリアになりますが、まだまだ社内にはアナログな作業が残っています。新聞スクラップ、FAX配信、目視のクリッピング確認、手書きに近いリリース作成。2026年にこの状態が残っていることに、他業界の方は驚かれると思います。しかしながら、長く業界の中にいると、変わらない理由も見えてきます。
各メディアジャンル毎にデータの収集するシステムが切り分けられており、複数のシステムを活用しなければならないこと。著作権の問題で容易にデジタル上でクライアントや関係各所とデータでのやり取りができないこと、などが大きな理由になっています。
また、PR会社は人件費単価のビジネスです。コンサルタントの稼働に対して対価をいただく構造なので、システム化して一瞬でできるようになってしまうと、「見積もりの正当性」が崩れてしまいます。というか、そのシステム使えばいいよね、となってしまいます。
さらに、「手間をかけている」ことがクライアントの安心感につながっているケースすらあります。実際に納品物の質ではなく、「いかに時間を掛けて分厚い資料を作るか」を美徳とする先輩方も過去に何人もいらっしゃいました。(今は業界的にもだいぶ減ったと思いますが、、、)
変革は突然に
転機になったのは、ChatGPT4が登場したタイミングでした。
もともと自分はAIには興味がなかったのですが、あまりにもSNSで話題になっていたので試しに使ってみる。「プレスリリースを作ってみて」と依頼すると、確かにそれっぽい文章が出てくる。今では当たり前に感じますが、AIがこちらの呼びかけに答えてタスクを処理してくれる初めての感覚を、今でも鮮明に覚えています。感激するのと同時に、「これはまずいな」と感じました。
何がまずいかというと、AIが進化していくと、リリースを書くことだけでなく、PRコンテンツを制作すること自体の価値が急速に下がっていくのが予測できたからです。誰でもそれなりの文章が書けるなら、コピーが書けるなら、イベントの企画ができるなら、PR会社に頼む意味が薄れる。定型業務を人手でやっている状態のまま、AIが普及していくと、PR会社の存在意義が問われることになります。
もう一つ気になっていたのは、汎用AIが出すリリースの質です。文章としては整っているけれど、どこか画一的で、整理されているだけ。ストーリーや感情がない、無機質な文章に感じました。一言で言うと全然面白くない。
我々PR会社にはメディアの皆さんや世の中に面白いと思ってもらえるコンテンツを作ることが求められますし、経験を積んだPRパーソンが作ったものの価値が正確に評価されず、生成AIで誰でもできるものと同じレベルと誤解される、なんてことが起こりかねない。そうなったらPRの価値が誤解され、PR業界自体も低迷していくでしょう。
キャリアの大半を過ごしたPR業界がそんな憂き目に遭うのは嫌だな、、、、そんなことを考えながら社内を見渡すと、そのPRパーソンたちがクリッピングやレポート作成などの定型業務に時間を取られていて、本当に価値のある企画や戦略策定の業務に十分な時間を使えていない。これをなんとかしないといけないなと考えました。
アンティルが作りたかったもの
そんな思いを胸に2023年から開発を進めてきたのが、PRパーソンを武装させるツールであるPRaiです。
定型業務をAIで圧縮して、浮いた時間を企画と戦略、そしてステークホルダーとのリレーションに当てる。コスト削減ではなく、1人あたりの付加価値を上げることを狙っています。
また、PR業界で長年に渡り定量化されずに手付かずのまま残り続けてきた、PR的な意味での面白さや、予測モデル、記事の掲載効果やメディアとのリレーションなどを再現可能にしたいと考えました。これらは我々の提供価値の根幹にも関わらず、属人的であり、ふわっとしている。だからある種職人的な存在が許されてきたし、業界の中の人にしか理解されづらい、、、、そんなジレンマをPRに携わる多くの人たちが感じていたと思います。
この、ノウハウの再現性を突き詰める過程で生まれたのが7Dメソッドです。プレスリリースの社会的価値を7つの軸で80点満点でスコアリングする仕組みで、アンティルが培った20年分のPRノウハウを学習させています。その情報に社会的な価値があるかどうかが事前にわかる。弱い部分と、何を足せば改善するかまで提示します。
そして、この基準を持っていれば、社会的価値のあるコンテンツの企画もできる、、、そんな逆転の発想でPRaiは作られています。
汎用AIは文章を生成しますが、PRaiはPR視点での価値基準を持っていて、それを文章生成に活かすことができる。そこが一番大きな違いです。
サービスをリリースしてみて
4月8日にリリースして、数日で複数のお問い合わせをいただきました。まだまだこれからですが、反応をいただいて感じたのは、同じ課題感を持っている方が想像以上にいるということでした。PR業界の中で「このままではまずい」と感じている人、でも構造的に変えにくいことをわかっている人。そういう方にとって、PRaiが一つのきっかけになれたら嬉しいです。
現時点の機能はソーシャルバリュー評価とプレスリリース生成ですが、PR会社が「これが自動でできたら」と思う機能をこれから順次搭載していきます。7Dスコアで企画の質を測り、配信後の成果との相関を分析するところまでつながったとき、PR業務の進め方そのものが変わると考えています。
最後にこれは私の信条なのですが、PR業界を変えるのは、PR業界の中にいる人間がやるべきだと思っています。PRのノウハウを持っていない企業が、AIでPRが簡単にできる、といった触れ込みで作ったサービスは、PRの価値そのものを下げてしまうのだろうと危惧しています。なので、PR会社であるアンティルが、本気で現場で使えるサービスを作りました。是非、使っていただけたら嬉しいです。
PRai:https://prai.lp.antil.co.jp/
※ この記事はnoteに掲載された記事を転載したものです。